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INTERVIEW

『8=∞』(エイト)発売記念パーティー
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『8=∞』(エイト)発売記念パーティー

アイドルの文化的遺伝子が受け継がれた夜
文・姫乃たま

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 私が宍戸留美さんに初めて会ったのは近所のカフェで、たしか2017年の年始だったと思います。ふと声をかけられて振り返ると、バンド・オワリカラのタカハシヒョウリさんがいて、「これからインタビューさせてもらうんです」と目を輝かせながら宍戸さんを紹介してくれました。慌てて名刺を取り出しながら、席を立ちます。名刺には「地下アイドル/ライター 姫乃たま」の文字。

 近年、私のように事務所に所属せず、フリーランスで芸能活動をしているアイドルが数えきれないほどいるのですが、その全ては1992年に宍戸さんが所属事務所を退社して、業界で初めてのインディーズアイドルになったことから始まりました。アイドルが芸能事務所とレコード会社のものだった当時、フリーランスでアイドルの道を切り開いた宍戸さんは、全てのインディーズアイドルの源流であり、母なのです。

 そしてその時隣にいたのが、宍戸さんの1sアルバム『ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド・シ・シ・ド・ル・ミ』を作曲した福田裕彦さんでした。
 数週間後に福田さんの主催するライブがあって、そこで宍戸さんが当時の曲を歌うのだと言います。事務所に所属していた当時は、CDの制作もリリースも、顔を合わせないまま行われていたそうで、この日は26年ぶりに、そしてようやくきちんと宍戸さんと福田さんが顔を合わせた日だったのです。

 なんかすごい場面に立ち会っちゃったなあ。
 席に戻った私はまさか自分がこの後、宍戸さんとの関わりを深めていくなんて思ってもみませんでした。

アイドルの文化的遺伝子が受け継がれた夜

 その後、福田さんのライブでは無事に「デジタル・ボーイ・フレンド」など数曲が“完全版”になってセルフカバーされたそうです。宍戸さんが福田さんとの再会を振り返ります。

「福田さんに聞くまで私も知らなかったんだけど、『デジタル・ボーイ・フレンド』とか『ママ、悩んでるよ』って、福田さんが作詞家の石嶋由美子さんとユニットでリリースするはずだった曲が、無許可で私のほうでリリースされちゃってたんだって。歌詞も間違ってるし、楽曲も納得してないまま世の中に出ちゃったって言ってて、知らなかったけどごめんなさいって。でもせっかく知り合ったから納得する形でCDを出しましょうって話になったんです」

 そうして宍戸さんの芸能活動27周年と、独立25周年を記念して、アイドル時代の8曲をセルフカバーしたアルバム『8=∞』がリリースされることになりました。

「私が歌うだけだと広がりがないから、現役でいま活動している女の子たちにも歌ってもらおうって話になって、ライブで共演したことのある絵恋ちゃんとか里咲りさちゃん(現・Pinokko)、一緒に連載を持ってる小明ちゃんや、番組でアシスタントをしてくれてるminminのふたりにも声をかけました」

 ほかに大石理乃さん、KOTONEさんと私が、宍戸さんから選んでもらった楽曲をカバーさせてもらいました。中でも大石さんにはオーディションで選ばれてCDに参加した経緯があります。

「『地球の危機』だけ私の周りに歌えそうな人がいなかったから、オーディションしちゃえと思って、YouTubeにアカペラの動画を公開してもらいました。大石理乃ちゃんはその中にいて、歌声が売り物になるなって。参加してくれた人はみんな、アカペラで歌ってくれって言われて、それにチャレンジしてくれる精神がすごいなって思いました。その後仲良くなって、コラボしたりしてるみたいで良かったです」

 2018年4月24日、『8=∞』の発売を記念して二子玉KIWAでリリースパーティが開催されました。

 オープニングアクトは福田さんが現在、楽曲提供している女優3人組のアイドルグループ・ノーメイクスです。
 いまも新しく生み出されている福田さんの楽曲を、現役のアイドルグループが歌う光景は、宍戸留美というインディーズアイドルの源流から、この夜まで歴史が続いていることを観客に教えてくれます。
 また、本業が女優でありながらアイドルとして活動しているノーメイクスのコンセプトは、アイドル業界が広く豊かになったことを示していました。宍戸さんにとっても、『8=∞』の制作とリリースパーティを経て、自身のアイドル時代とは異なる現在のアイドル文化に触れる期間になったようです。

「最近はいろんな人がアイドルやってるのにも慣れたかな。今回出演してくれた子たちもみんな、アイドルシーンの中心にいるような王道ではないじゃない。なんて言うのかな。昔だったらアーティストだった人が、アイドルのカテゴリーにいた方が活動しやすいからいいんだろうなって思ってる」

 リリースパーティには宍戸さんと福田さんをはじめ、CDの参加者から、絵恋ちゃん、大石理乃、姫乃たま、minmin(山咲智美、蝦名恵)が出演して、代わる代わるカバー曲をカラオケや生演奏で歌ったほか、急遽、『8=∞』には収録されなかった「るみちゃんの危機」「コンビニ天国」「二人は映画みたいにいかないね」を私と大石理乃さん、絵恋ちゃんが、宍戸さんとのデュエットで披露しました。
 普段、「絵恋ちゃんと楽器」名義でバンド活動もしている絵恋ちゃんが、MCで福田さんを「楽器」と呼んで、宍戸さんを驚かせる場面も。

「笑っちゃった! もう最近の子ってすごい! たまちゃんも楽屋で福田さんの赤いジャケット姿を見て、ルパンみたいですねって言ってたのびっくりしたよー」

 曲の合間に宍戸さんと出演者たちのMCや、福田さんが弾き語りする一幕もあって、パーティ全体が一枚にまとまったコンピレーションアルバムのようでした。

「振り返ってみたら私、全曲カラオケで歌ってた。絵恋ちゃんと理乃ちゃん福田さんのは生演奏だったのに!(笑)でも今回は『8=∞』のみんなのイベントで、私のイベントじゃなかったからいいの」

 さらにアンコールでは、『地球の危機』のオーディションを経てコーラスに参加した「危機チーム」(神威希詩、ガーデン、海苔野りの、おはぎ、蒼井まや、藤沢純、根岸リホ、イヴにゃんローラン)も駆けつけて、舞台上は大賑わい。
 最初は舞台の中心に立ってみんなを引っ張りながらまとめていた宍戸さんが、曲が進むにつれて舞台の後方へ下がっていき、歌詞を一行ずつ交代しながら中央に立って歌う出演者たちを見守っていて、宍戸留美の文化的遺伝子が引き継がれていくのを目の当たりにしました。

「みんなに曲だけ伝えてあとはお任せしたから、どうなるかわかんなかったけど、ちゃんとやってくれててクオリティが高くてよかったです。私の選曲もみんなの良さが出たんじゃないかな。誰に何が合いそうとか、そういうの考えるのが好きなんです」

 お任せしたと言いつつ、事前に宍戸さんと福田さんが数日間のリハーサルを設けてくださったので、出演者全員が当日に向けて気持ちを集中させていて、おかげで楽屋でも仲良くしていたのが印象的でした。みんなそれぞれ個性的ですが、宍戸さんのもとに集まった者同士、通じるところがあるのでしょう。

「アイドルっていまのほうが仲良いかもね。昔はマネージャーとかワンクッションあったから、アイドル同士が直接関わったりすることなかった。出演者の女の子たちについてはフィーリングが全てなので、何か基準があるわけじゃないんだけど、自分の意見を持ってる強い子が多いかも。オーディションを受けてくれたり、みんな私に会いたいと思って集まってくれてたわけだから、とにかく嬉しかった」

 客席の中には、宍戸さんをアイドル時代に応援していたことで、いまでも現役のアイドルを応援している人たちがいて、宍戸さんとアイドルたちの邂逅に感極まっている姿が見受けられました。こうしてたくさんの拍手に見送られて幕は下りたのです。

宍戸留美から現役アイドル、そして未来へ。

 『8=∞』が一段落したところで、宍戸さんは改めて現在のアイドルシーンを見つめています。

「いまってアイドルが好きにできるようになった分、アイドルになってもうまくできない子もいるじゃない。ツイッターとかで悩んでる子を見ると可哀想。やりたくないことはやる必要ないよね。私も当時は悩むこともあったけど、死にたいみたいに思うことはなかったよ」

 辛くても理不尽な目に遭っても、宍戸さんは歌うことがとにかく好きで、そして活動の支えになっていたのが、アニメ声優の仕事でした。キャラクターを裏切っちゃいけないと思うと頑張れた、と宍戸さんは言います。アイドルは自分自身が輝かなければいけない仕事ですが、アニメの一部になってキャラクターを輝かせることに責任とやりがいを見出していたのです。

「もともと私自身がこのメッセージを伝えたい! みたいな気持ちはないの。なんか欲がなくて。誰かと作品を作るのは好きだけど、自分が何かを伝えなくてもいい。歌うことも好きだけど、人とものづくりするのが好き。自分だけじゃ生まれない作品が、誰かと作ることで違う形になるのが好きなんです」

 アイドルというと、女の子が人気者になりたくて目指すイメージがありますが、実際には欲を強く持つことで自分自身に絡め取られて沈んでしまうこともあります。自分がどうしたいのかも重要ですが、作詞作曲をしないアイドルにとって、誰かの意見も取り入れながら一緒に作品を残していくことは、活動の醍醐味でもあるのです。
 宍戸さんは現在、自分の新しい音源を制作したいと話しながらも、先日のオーディションで出会った高崎美佳さんのプロデュースに熱中しています。自分のことだけじゃなくて、人と繋がって、次世代に繋げていく。あの日、宍戸さんの姿から私たちが教わったことです。

「どんなに頑張っても自分の力では手に入らないものがあるってわかってから、欲がなくなったのかも。昔、すごい売れてたら満足して辞めちゃってたかもなあ。でもね、いま死んだらやったことないことやってたからすごい人ってことになると思う!」

 だいたいみんな死んでからすごい人みたいになるのおかしいって思うなあ、と宍戸さんが口を尖らせます。文章の最後に死んだって書いておきましょうかと言うと、宍戸さんは「怖い!」と大きな声で笑いました。

『8=∞』(エイト)発売記念パーティー
2018/04/24(火) @二子玉川KIWA
■セットリスト
M1.サイファイ/ノーメイクス
M2.ハイ!敬礼!/ノーメイクス
M3.ママ、悩んでるよ/宍戸留美
M4.デジタル・ボーイ・フレンド/minmin
M5.ピンクのラフレシア/姫乃たま
M6.るみちゃんの危機/姫乃たま×宍戸留美
M7.全人類が愛しい夜/大石理乃×福田裕彦
M8.機関車/福田裕彦
M9.ストロボスコープ/福田裕彦 ×大石理乃
M10.コンビニ天国/大石理乃×宍戸留美
M11.Panic in my room/絵恋ちゃん×宍戸留美(コーラス:大石理乃、姫乃たま、ノーメイクス)
M12.君はちっともさえないけど/絵恋ちゃん×福田裕彦
M13.恋のロケットパンチ/絵恋ちゃん(ダンス:minmin)
M14.二人は映画みたいにいかないね/絵恋ちゃん×宍戸留美×福田裕彦
M15.ハートにリンス/宍戸留美
M16.地球の危機/宍戸留美×大石理乃×絵恋ちゃん×福田裕彦 (コーラス:姫乃たま、minmin、ノーメイクス)
EN1. 地球の危機/出演者全員&危機チーム

姫乃たま(ひめの たま)

1993年2月12日、東京生まれ。16才よりフリーランスで始めた地下アイドル活動を経由して、ライブイベントへの出演を中心に、文筆業を営んでいる。音楽ユニット・僕とジョルジュでは、作詞と歌唱を手がけており、主な音楽作品に『First Order』『僕とジョルジュ』等々、著書に『職業としての地下アイドル』(朝日新聞出版)『潜行~地下アイドルの人に言えない生活』(サイゾー社)がある。

http://himenotama.com/
https://twitter.com/Himeeeno

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